価値観の共有

こんにちわ。代表の上田 隆です。

弊社のショールームとガーデン回りの設計をお願いしている建築家の勝村先生(以前の社長ブログで紹介しました)のお見舞いに行ってきました。

実は、先々月に他の現場で転倒して頸椎を骨折され(神経は無事でした)2か月ほど寝たきりでしたが、ようやく痛みも治まったそうでコルセットをつけて事務所で仕事を始められていました。

先生とスタッフの方と僕とでお茶を飲みながら雑談をしていたら、先生が独立当時のことを話しはじめられました。

2か月間ほとんど寝たきりで時間がいっぱいあるものだから、自分の人生を振り返ったり、人のつながりの不思議を感じたりしていたのだそうです。

僕に話すというより隣のスタッフに聞かせようと思われたのかもしれません。

あまりに深いお話だったのでご本人の許可のもと紹介させていただきます。

勝村建築設計事務所は、設立が1977年なので来年で40年周年になります。

独立したての設計事務所は当然無名で、仕事も全く来なかったといいます。

今のようにインターネットが無い時代ですので、自分の存在を知ってもらって仕事をもらうには、「工務店や住宅会社に電話や手紙で積極的に営業をかける」あるいは「自分の設計を気に入った方からの依頼や紹介をひたすら待つ」の二つです。

先生は営業活動はせず、ひたすら依頼を待ったのだそうです。

当時は専業主婦の奥様と子供さん以外に古い友人も居候されていたようで、とても不安な毎日だったことでしょう。

「ある日、初めての方から電話があり 『つい先日に火事で家と店が全焼した。県の融資で300万だけ用意できるのでカフェを始めたい。土地はあるのでそれ以外、すべて込みでお願いできないか。』

あまりに厳しすぎる金額条件の提示です。

総工費300万円なので、建物、内装、厨房機器と割り振ると設計料は30万以下・・・。

おそらくこれまで多くの設計事務所から断られたはず。

ならばよし僕がやってやろう! と思ったわけです。

とはいうものの、いいアイディアが浮かびません。

他に仕事がなく暇ということもあり毎日いろいろなところにヒントを探しに出かけましたが、あるとき神戸の港で中古コンテナが並べて売られているのを見て一瞬ひらめきました。

早速その事務所に行って価格交渉をし、奈良の現場に運びました。

内装にお金はかけずシンプルかつスタイリッシュなデザインにし、中古の厨房機器を探してなんとか300万に収めることができました。

超安価ではありますが、とてもセンスフルなお店ができたと思っています。

ところが、このコンテナカフェが雑誌に載って大ブームとなり奈良の隠れた観光スポットとして国内外に紹介され多くの観光客が連日店に訪れるようになったのです。

ある時はミスユニバースの各国代表が奈良ホテルに泊まってどこかカフェに行こうとなり、今や有名になったコンテナカフェに代表たちが揃って行って話題となったのは痛快でしたね。(そういえば、30年ほど前にコンテナの飲食店が奈良県でちょっとしたブームになった事がありましたが、その火付け役が先生だったとは?!)

それからというもの、徐々に設計の依頼が増えてきて今に至るわけですが、それらすべては自分の作品を気に入ったオーナーからの依頼なので、自分の好きなようにさせていただけました。

40年前に、工務店や住宅会社に営業をかけた同業者はすぐに仕事をもらえたし今も仕事はあるでしょうが、どちらかというと自分の仕事というより工務店や住宅会社の下請けのような仕事が多くなっているように感じます。

作品というよりも商品に近いのでしょうね。

振り返ると私は、最高のタイミングにお客様からご連絡いただき、その時の自分が一番望む仕事をさせていただいている。

念じれば叶うのかと思えるほどです。

先頃は「東京で仕事をしたい」と思っていた時に、ある方から東京での居宅の設計を頼まれました。

その方は、奈良が好きで毎年奈良に旅行に来られる。

数年前に奈良町を訪れた時に素敵な家を見たので、思い切って持ち主に設計士を聞いたら勝村という建築家だった。

翌年違う場所で素敵なお店を見つけ、聞けば設計は勝村。翌年も同じことがあり尋ねたら勝村という名前を聞いた。

という訳での直接のオファーでした。

これも、建築物を自分の作品としての設計できたからで、もし工務店、住宅会社から仕事をもらって、作品というより商品としてコストと新築時の見栄え重視で設計していたらオファーはいただけていないだろう。

なにより節のある無垢の木は使えないし、色や形がいびつな天然石材も使えません。

人間関係も建築も大切なのは誠実さだとおもいます。

いくら新築の時に美しいといってもビニールや樹脂で天然に似せた本物ではない材料は使いたくないです。

またそのことに価値を感じていただけるお客様の仕事をしたいのです。」

というお話でした。

人間って結局、近い価値観の人どうしが引かれあいます。

「ピカピカ光沢あるビニールや同じ形状色調のプラスチックの材質」と「節だらけ、いびつな無垢木や石材」のどちらに価値を感じるかはそのお客様の価値観です。

夫婦であれ恋人や仲の良い友達であれそこに「共有できる価値観」がないと長くは続きません。

それは建築家と依頼主、先生と生徒、社長と従業員。

そして我々であれば「お店とお客様」にもいえると思いました。

価値観が近いからこそ自分が心からよいと思える商品やサービスに価値を感じていただき理解してくださるわけです。

こう考えていくとお店にたいして価値を感じていただくには、そこに一貫したものがないといけません。

ポリシーなくその場その場の利益や都合で方針が変わるようでは、そのお店が何を大切にしているのかがお客様から見えません。

だからこそ、自分が大切にする事や物、人に対して、常に誠実でないといけないし、それがブレてはいけないのだと思いました。

先生が事務所を設立した当初の全く仕事が来ない時期、営業に行かなくとも奥様は一言も文句を言わなかったそうです。

先日、先生が奥様にそのことを言ったら、こういうこともあると結婚前から貯金をしていたと笑いながら言われたそうです。

貯金を少しずつ取り崩しながらも、いつか夫に素晴らしい仕事が来ることを信じて待たれていたのでしょう。

最後に、勝村建築設計事務所のコンセプト(理念ともいえると思います)をご紹介し、今回のブログは終わります。

「建築を考え、つくるとは、今を考えることです。私達を取巻く自然・社会・文化・歴史の中で、それらと融合し共存し対峙する境界を考える行為です。

建築は場に支配され、人に支配され、時代に支配されます。

その中で普遍性を持つ手法や空間構成を模索することこそ建築の本質と考えます。

稀に場・人・時代を超越する建築が存在するからです。現在とは建築を考え、創るプロセスそのものです。」

勝村建築設計作品

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